日々の身繕いでイツノマニカ体内に生成される毛玉のハナシ


by neko-dama
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『ゲイルズバーグの春を愛す』読んだ。

『ゲイルズバーグの春を愛す』

原題:"I love Galesburg in the springtime"
著者:ジャック・フィニイ Jack Finney 福島正実・訳
ハヤカワ文庫 2002年4月15日 17刷/1980年11月30日発行
表題作含め10篇のファンタジーを収録した短篇集。初出は1952~'62年の雑誌掲載。

 SF長編『盗まれた街』に続き、ジャック・フィニィを読んでみた。これは、まずタイトルに惹かれた。ゲイルズバーグ(Galesburg)という美しい響きの町、意味は“強い風の吹く町”といったところか。春の、強い風に吹かれるコートの裾や木々のざわめきなんかを想起させる。

 短篇集なので詳細は後述するが、総体的に懐古ロマンなファンタジーテイスト。古き善き時代への愛慕が1冊丸ごとから滲み出ている。『盗まれた街』と同様、とてもリアルな筆致なのが不思議な現象を際立たせ、また、アリもしない話に真実味を持たせる。端的に言って、良質な『世にも奇妙な物語』群だ。ただ、常に冷静で客観的な雰囲気を漂わせているので、老人の昔語りの独り言チックではある。「こんなことがあったんじゃ。不思議よのぅ。」という、それだけの話。そして私はそういう話が大好きだ。


■収録作品と感想メモ
・『ゲイルズバーグの春を愛す』 "I love Galesburg in the springtime"
 開発が進められようとする古い町ゲイルズバーグで起こる不思議。壊されたくない想念の成せる業なのか?現代とクロスする過去の記憶・亡霊はささやかに抵抗してみせる。古い町並みというのは、それだけで何か力を秘めているように感じることがある。あるでしょ?自分だけが過去に足を踏み入れたかのような錯覚、脈々と連なってきた人々の生活に思いを馳せるひととき。

・『悪の魔力』 "Love, your magic spell is everywhere"
 不思議なグッズを売ってる店に通う男の話。小エロ!小学生か!っていうアレ。単純に面白かった。これが'50年代に書かれた話かと思うと、人間て変わらないよなぁとニンマリする。ロマンチシズムでいったら男のロマンというか夢なんだろうけど、オチで冷水浴びせられる感じが気持ち良い。

・『クルーエット夫妻の家』 "Where the Cluetts are"
 これも表題作系の懐古ロマン。こちらは町ではなく家そのものが魔力を持っている。魔力といってもオドロオドロシ気なものではなく、ふんわり包み込む感じだ。そして、その影響下にいる人たちは幸せに暮らしている。この夫妻は新しい形のヒキコモリといって良いんじゃないかな。こんな風に現代の忙しなさから逃れて2人で暮らすのは、ある意味で理想なのかも。できないけれど、憧れる生活。

・『おい、こっちをむけ!』 "Hey, look at me!"
 風変わりな幽霊もの。じわっと恐怖感が広がる描写は秀逸。作家の悪気なさが浮世離れしていて、たまにこういう人いるよなぁって思った。自分の才能を育てるのに周囲の人が金を払うのが当然、て本気で心底思ってる人。それでも、この作家はどうにも憎めないところがあって不思議だ。

・『もう一人の大統領候補』 "A possible candidate for the presidency"
 いささか意地悪な目線の、虎を眠らせた子供の話。人の注意を惹くのがうまい人ってのもいるわけで。政治家なんか裏で何をしてようと“巧い見せかけ”さえあれば票を集められたりする。そんな皮肉がこもっているんだろう。ひいては、金儲けというもののカラクリに対する興ざめ感なのかもしれない。

・『独房ファンタジア』 "Prison legend"
 いかにも『世にも奇妙な物語』テイストの死刑囚の話。決してあり得ないファンタジーが感動的。全体にそうだけど、ここでも真実や合理的な説明などほっぽった、あるがままを受け容れる雰囲気が心地よい。夢のような美しい一篇。

・『時に境界なし』 "Time has no boundaries"
 タイムトラベル・ファンタジー。こちらも懐古ロマン的ながらミステリ風味の面白さ。話の構成が巧いので、満足感の高い短篇になっていると思う。シェイクスピアやレ・ミゼラブルが引用されているのも楽しい。

・『大胆不敵な気球乗り』 "The intrepid aeronaut"
 軽やかで爽快な、気球を作って飛んでみた男の話。リアルさがまったくない、夢のようなファンタジー。ラストの日常感と、秘め事に笑む男の愉快さが、弾むような楽しい気持ちにしてくれる。やや冗長ながら洒落た作品。こんな逃避行動してみたい!銀河ヒッチハイク・ガイドの『さようなら、いままで魚をありがとう』で描かれた二人で空を飛ぶ件(くだり)を思い出した。あれをもっとロマンチックに純粋にした感じ。

・『コイン・コレクション』 "The coin collector"
 多次元世界もの。ストーリーは下世話な感じがしなくもないが、こんなことがあったら面白いだろうなぁ。でもこれって逃避の繰り返しじゃない?この世界からあの世界へとスイッチし続けてイイトコ取りな生き方。だがしかし、それを敢えて肯定し、人としての“正しい”生き方に立ち返らないところが面白さ。面白味のない現実への抵抗というか、せめてこういう夢ぐらい見たいや。っていう。

・『愛の手紙』 "The love letter"
 時を超えた愛の物語。懐古ロマンな『イルマーレ』。なんかもう全面的に過去に生きている人だ。ほろ苦い甘さの中に生きていると言っても良い。美しく頑なな逃避。愛ってなんじゃろか?と考えたくなる、そんな短篇だった。
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by neko-dama | 2009-04-27 18:26 | 猫の図書館/美術館