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日々の身繕いでイツノマニカ体内に生成される毛玉のハナシ


by neko-dama
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『ブラッド・ミュージック』読んだ。

『ブラッド・ミュージック』Blood Music
グレッグ・ベアの世界系SF。(1985年)
エンタテイメントでありつつ、知的好奇心を擽られる良書。
生物学好きにはタマラン。細胞かわゆす!

知的微生物を作り出した科学者と、その微生物ひいては人類の行く末の話。
この科学者が本当ダメな感じでね、まったく感情移入はできない。
でも、しなくて良いんだと思う。
彼の友人である医者の方に感情移入するのが人として正しい在り方かもしれない。

中盤以降、舞台と登場人物が切り替わったりしながらグイグイ進んでいく物語に惹きこまれる。
映像が浮かぶような描写が多く、まるで映画を観ている気分になる。
知的生物の生みの親である科学者の母親が、非常にキャラ立ちしていて不思議に魅力的。
彼女の母性と魔術的雰囲気がこの小説のヌケになっていて、科学的・知的なだけではない暖かさを醸し出している。
(もう一人、スージーという女性が表す『守られるべき存在』といった要素も、進化への戸惑いや不安、個への執着をわかりやすく説明している。そこがまた暖かい。)

知的微生物たちの集団の意思が育っていき、現状を把握し未来を予測し破滅を回避しようと行動するあたり、人類となんら変わりはないなぁと思わされる。
いわゆる『神』となる科学者のヘナチョコさや身勝手さに拘わらず、知的微生物たちはどんどん成長してモノを考える。
こういった設定を私たちの世界に置き換えて考えてみると、とても楽しい。

結果として人類全体の問題ではあるんだけど、発端や事の進展はごく個人的な行為であるところが面白い。
ひとりひとりの血の通った人間の独断的行為が全体の流れを決めていく。
これは歴史を学ぶときにも思うことだけど、個人的な事情が優先される面白さ。
すべてが合理的、理屈に合うってわけじゃないよね。理屈で言えば間違ってるほうの道を選んだりする。
よく恋愛映画の感想で見かける「二人が惹かれあう必然性が感じられない」とかいうのが私は好きじゃない。恋愛はそういうモノだもの。理屈もなにもないって。
(文句のひとつも言いたくなる設定の映画は多いけどさ、確かに。)
それと同じで、作中人物が選ぶ道がいつも理屈に合っている必要はないなと思っている。
自分がそうだもんね。わけの分からないことをしてしまう。

閑話休題。

この物語の実質的な主人公は知的微生物(ヌーサイトと命名される)だろう。
個の概念が希薄な集合的意識、というか生体システムのようなもの。
彼ら微生物たちの透明な存在感と肉感の薄さ、生命感の希薄さと言ったら良いのか。
それは知的微生物という種が育っていくにしたがって、植物のように蔓を伸ばして生き生きと人間を捕らえていくように感じた。
さやかな音楽に包まれ、生ぬるいゼリーに包まれるような感覚。
(あくまで比喩的表現なので、そういうホラー話ではないよ!)
それがブラッドミュージックなんだろう。羊水の中に戻る、オーヴァーチュア(Overture)。
『2001年宇宙の旅』のテーマとも通じるものがあるように思う。

あと、ティプトリーの『たったひとつの冴えたやり方』に出てくる脳寄生体の小さな宇宙人をちょっと思い出した。
浅倉 久志さんの訳がラノベっぽくてすごかったな、あれ。 おお、おお、おお・・・。


関連リンク⇒交響詩篇エウレカセブン:ポケットが虹でいっぱい 【思い合う 心が作る この世界】
by neko-dama | 2008-02-20 15:28 | 猫の図書館/美術館