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日々の身繕いでイツノマニカ体内に生成される毛玉のハナシ


by neko-dama
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6/6 少女小説家は死なない。

6月6日、氷室冴子さんが亡くなった。

淀川さんが亡くなったときと同じぐらいショックをうけた。
氷室さんの場合はまだ若かった(享年51歳)から、驚きという意味では淀川さん以上に。

私にとっては氷室さんといえば少女時代そのもの。
小学生から高校時代まで、めいっぱい読んでいた。
大学を卒業する頃にはすっかり新作を読まなくなっていたが、それは氷室さんが寡作になっていたからでもあった。
小説家人生の晩年にあたる90年代初め~半ばの作品は途中から読んでいない。
続き物の古代日本ファンタジー『銀の海 金の大地』や
エデンの東が元ねたの『冬のディーン 夏のナタリー』は完結したんだろうか?
平安ミステリー『碧の迷宮』は上巻だけを読んで、いつまで待っても下巻が出なかった。
結局未完のままだ。

氷室さんは少女マンガ的な小説を目指していた。
今ならラノベと言われそうだが、当時はそりゃぁ新しかった。
作風はドタバタコメディが多く、プロットがよく練ってあったのでエンタメとして最高だった。
そして確かな知識と、ぐいぐいと惹きつける筆致。

少女時代は、今で言う『信者』といっても過言でないほど大好きだった。
私が平安時代や古代(記紀の時代)や俳句が好きなのも氷室さんのお陰。
少しでも早く読みたくて、氷室さんが連載を寄稿していた小説雑誌『Cobalt』も買ってたよ。
季刊だったのが隔月刊になったのを覚えてる。
うん、今だったら完璧に『オタク』って言われるかもしれない。
根暗とは言われていたけど。

今でも本棚に、ピンク色の背表紙のコバルト文庫がある。
氷室さんの小説で特に好きなものを残して置いてあるのだ。
今読んでも、やっぱり面白い。

初期の『さようならアルルカン』や『白い少女たち』は繊細で古風で、ガラスの欠片みたいな小説だった。脆くて痛くて透明。氷室さんがリスペクトする吉屋信子系統。
まだ少女マンガ的コメディ路線が確立する前の作品たち。
繊細路線では他に『海がきこえる』や『なぎさボーイ』『多恵子ガール』があった。
どれも思春期の男女が主人公で、切ない青春の匂いが香ってくるものだった。
とりわけ『白い少女たち』の絶望感とやさしさと残酷さとほのかな希望のミックスは好きだ。

その繊細さと少女マンガ的コメディが融合した『シンデレラ迷宮』『シンデレラミステリー』は本当に泣きながら読んだ。名作!
本の世界(というか自分の内なる世界)に逃げ込む少女の話で、登場人物の魅力あふれる作品。
ジェイン・エア(奥方)、白鳥の湖のオディール(踊り子)、白雪姫の継母(お妃)、茨姫(姫君)など、よく知られた物語の人物が登場します。
語られなかった物語が展開され、どの人物も切なくてたまらないエピソードを披露する。
中でもジェイン・エアは、これがきっかけでブロンテを読んだんだった。

ドタバタコメディでは何と言っても『雑居時代』(上・下)が楽しい。
開校以来の才媛、才色兼備の完壁少女が主人公。この主人公の二重人格ぶりやら、いつも何かを企てては失敗してキィーっとなる展開やらが楽しい。
全ての作品を通じて言える事だと思うけど、他人を貶めたりする笑いではなく、自分が仕掛けた罠に自分がハマッちゃうような自虐の笑いなのだ。

他にも『なんて素敵にジャパネスク』シリーズや『ざ・ちぇんじ!』といった平安モノコメディ、映画にもなった『恋する女たち』などどれも面白い。
登場人物のユニークさ。そのユニークな面々が日常を過ごす描写。
変人を普通に受け入れる周りの面々。あるいは受け入れずに誤解したまま遠巻きにする人々の描写。
本を読む楽しさを育ててくれた、氷室さんの少女小説。

セルフパロディでもある『少女小説家は死なない!』では自分を客観的に笑い飛ばしている様子が清清しかった。
エッセイ集『いっぱしの女』や『東京物語』でもそのトーンは変わらず、自虐な笑いと呆れながらも味方な家族友人の話が盛りだくさん。

最近では辛口とかいって人を悪く言ったり貶めたりするのが持て囃されるけど、
そうじゃない笑いが、そこにはあった。

氷室冴子さんは、少女小説ブームという一時代を築いた作家さんでした。
90年代半ば以降、執筆活動をされていなかったとのことだけど、楽しく過ごされたのならいいなぁと1ファン(元・少女)としてはそう思うばかりである。
氷室さん、ありがとうございました。
また本棚から手にとって、少女時代を甘苦く想いたいです。
本棚からなくなってしまっても、心の中にしっかり残った結晶は消えることはありません。

またひとつの時代が過ぎていったように思う、昼下り。
by neko-dama | 2008-06-10 16:05 | 猫の図書館/美術館